阪大入試採点ミス騒動
何番煎じになるかわからないが、興味深いと思ったので僕も話したい。
ニュース
今日Twitterで驚くべきニュースが流れてきた。
http://toyokeizai.net/articles/-/203751toyokeizai.net
なんでも昨年の阪大の入試問題に採点ミスがあり、本来合格していたはずの受験生が不合格になっていたというのだ。
誇張なしに人生を左右する大学入試でそんなミスをされたのでは、受験生としてはたまったものではない。
すでに他大学に通っている人などは1年遅れで入学するべきか大いに悩むことだろうし、波風立たないはずがないが、最終的に彼らが納得出来る結果に落ち着くことを望む。
リンクも切れたようだし詳細はググって頂きたい。
問題の問題
さて、今回の本題はここから。僕がしたいのは阪大を叩くことでも阪大の話に始まり原発問題慰安婦問題の持論展開に終わる話でもなく、物理の問題そのものについてである。
まずは件の問題。
問5は問4が正しく出せれば問題ないので割愛。
問4)音叉からの音と壁で反射した音が強め合う条件は?
経路差2dが半波長の偶数倍で強め合うので
2d=λ/2×2n
ただしこれは壁での反射が自由端反射である場合。
反射波が固定端反射であれば位相がπずれるので強め合う条件は奇数倍になる。
2d=λ/2×(2n-1)
難易度としてはセンター試験レベルのごくごく単純な問題にも思える。
問題その1
実際これが横波であれば単純なのだ。固定壁とあるので固定端反射でまぁ間違いない。
これが厄介なのは音波だということ。
音は縦波、即ち疎密波である。疎密波が固定端反射した時、変位の位相はずれるが密度の位相はずれない。
ぴったりの動画を見つけたのでリンクを貼っておく。
密が密のまま反射しているのがわかると思う。
しかし高校物理に密度の位相なんて概念は存在しない。実際にはマイクロスコープが感知するのは空気の密度なのだが、そうは言っても横波と同様に扱うよう普通の受験生は教わっているはずである。
問題その2
そしてもう一つ、この問題には厄介な部分がある。というかこっちが重要。
左右に進む音叉の波の疎密が一致しているかどうかの定義が不足している。
疎密が一致しているということは(横波変換時の)変位の位相は逆ということになる。
※わからなかったら実際にやってみるといい。疎密波の変位を反時計回りに90°回転させることで横波に変換できる。
ここは問題ごとに定義すべきデリケートな部分である。
実際には(音叉を使って実験すると)左右の疎密は一致しているのだが、僕の記憶の限りでは教科書にそんな記述はないし、むしろ左右に同じ位相のsinカーブが出ているイラストが載っていたような気すらする。
実際の音叉の映像。初めは片方を叩くのでずれているが、徐々に左右対称の振動になるので、疎密も対称。
そもそも高校物理の範囲では疎密波の挙動についてほとんど言及がなく、「音は実は疎密波だよ」とはいうものの問題自体は横波として考えさせるものが多い。(普通はそれで不都合生じない。)
4種の受験生の頭の中
以上2つの齟齬が生じうる箇所を挙げた。4つの考え方が出来るのでまとめてみる。
1、固定端反射なので反射で位相ずれ、音叉の左右での位相は特に考えない
阪大側の模範解答。恐らく9割の学生がこの考え。僕が試験会場にいてもこの回答をしただろう。
教科書に書いてある内容だけで答えるならこれが唯一解となる。
しかしこれ、実は片方は間違っていて、もう一方は二重に間違って結果的に合っている。裏の裏は表。
「固定端反射なので位相ずれる」
音は疎密波ということがすっぽり抜けているのでこう考えることになるが、媒質の運動をよくよく考えれば固定端反射で位相がずれるというのには疑問を抱くはずだ。
「左右の音叉は特に考えない」
考えないというのは一致していると捉えているということだ。これがまぁ…結果的には正しい。
しかし前半「固定端反射なので〜」と横波で捉えているのであれば後半も横波で捉えるべきだ。横波で捉えた場合位相は左右逆になっている。
解答は 2d=λ/2×(2n-1) となる。
2、固定端反射なので反射で位相ずれ、音叉の左右での位相は逆
教科書をよくよく読み込んで、資料集にも目を通していた人ならこの解答に行き着くかもしれない。
全部丁寧に横波で考えた素直な考え方。
前半は1と一緒。
後半、音叉が左右対称に振れる振動の仕方をするということを知っていればこうなる。
疎密波ということを失念していたわけでなく全て横波で考えた方がいいと判断したのかもしれない。物理の問題は慣性問題のように、考え方が統一されていればどの考え方でも正答に辿り着けることが多いので、正しい判断。
解答は 2d=λ/2×2n となる。
3、疎密波は固定端反射で密度の位相は変化しない、音叉の位相は左右逆
どうあっても誤り。擁護できない。
解答は 2d=λ/2×(2n-1) となる。
4、疎密波は固定端反射で密度の位相変わらず、音叉の左右で疎密が一致
疎密波として音を捉え実際に起こる現象を全て正しく捉えている。
解答は 2d=λ/2×2n となる。
そして昨年阪大が◯をつけたのは1と3である。3は途中式を書かされれば×だっただろうが、答えだけを書く形式なので1と区別がつかない。
今回正答と認められたのは2と4。
乱暴に言えば高校物理の範囲での正答は1、2、4。実際は2、4。って感じ。
多分この話題は専門の人がそれこそブログやSNSで話したがる内容だと思うので、更に詳しく知りたい方はそういうところを当たって頂きたい。
長々と書いた割にはそんなに自信がない()