携帯電話の略称はなぜ「携帯」なのか
「携帯」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。
どれも違うだろう。恐らく9割以上の人が「携帯電話」を思い浮かべるのではなかろうか。
「携帯」には本来「電話」という要素は皆無だし、なんなら「携帯」は名詞ですらないかもしれない。
より狭く厳密に捉えようとすると、携帯とは持ち歩くこと一般を指す言葉であって何か物質を指すものではない。英語でいう動名詞のような立ち位置だ。
とてもじゃないが携帯電話というモノを指す言葉として相応しいとは思えない。
むしろ「携電」とでも略した方がより良く要素を盛り込めている。
しかし現実には携帯といえば携帯電話だし携帯電話といえば携帯だ。(?)
ガラケーがほぼ淘汰された現在でも変わらない。
なぜだろう。少し考えてみる。
【目次】
蒐集
さて、因果関係の矢印を束にして掴みやすくするため、まずは携帯以外にも似たような略し方がないか探してみよう。
すなわち、複合名詞の前半のみを取り出してきて元の名詞全体を指すことのできる略語の例だ。
高速、スーパー、定期、コンタクト、センター、中華、分析、有機
こんなところか。
分類
粗方集まったところで分類してみよう。
成立している理由で分類
試しにその略語が成立している理由で分類してみる。
①対抗馬が弱すぎるパターン
高速道路→高速
中華料理→中華
対抗馬とは他に混同しうる言葉という意味だ。
「高速」と言ったとき高速道路と混同しうる言葉といえば「高速通信」、「高速回転」などだが、単に「高速」といって「高速回転」のことを指しているとは普通思わない。高速→高速道路の復元力が圧倒的に強い。
②特定の分野内での共通認識に頼ったパターン
分析化学→分析
有機化学→有機
この例は僕の専攻に依存している。どちらも科目の名前だが、同じ領域にいる人間の前でしか使えない。
先の例だが、ハンドスピナー学専攻の学生同士の会話であれば高速は高速回転を指すだろう。専門領域内での暗黙の了解に依存しその領域の中でしか通用しないものをここに分類する。
③身近で使用頻度が極端に高いパターン
スーパーマーケット→スーパー
センター試験→センター
定期券→定期
使用頻度が高いため些細なものでも略す意味がある。毎回毎回スーパーマーケットスーパーマーケットとか言ってられない。
定期券は毎日使うし、朝のバタバタした時間帯に使われるからかもしれない。お母さんが「あんたちゃんと定期券持ったのー!?」のうち「けん」の2音を省くことで、電車に乗り遅れる学生が年間3000人程減るという統計がない
④元の言葉が長すぎるため多少無理しても略すパターン
- コンタクトレンズ→コンタクト
ほとんど③と同じだが、使用頻度がそこまで高くないという部分を元の言葉の煩わしさで補強して略す理由に足る水準まで押し上げている。
こんな分類が出来そうだ。
ただしこの分類、多分に被っている部分がある。
まず「センター試験→センター」は②と③に橋を架けている。
受験生が主に使う略称で、受験生にとっては常に頭にあり身近に感じる存在であり、また受験生同士、学校の先生、自分が受験生であることを把握している人物との会話でセンターと略すことが多い。これは共通認識に頼っている部分がある。
また①は②~④に分類されたすべての言葉にもあてはめられる。対抗馬となる言葉が同程度の印象の強さを持っていればそもそも略すことも叶わない。①は略称を持つ必要条件といえる。②~④に分類しかねた時にとりあえず放り込んでおく箱と思ってもらって構わない。
携帯は?
さて、「携帯電話→携帯」はどこに属すだろうか。
言わずもがな、③だろう。
第三の臓器ともいえる身近も身近な存在である。ナンバリングが若すぎる気もするが、とにもかくにも現代人にとって自分の半身ともいえる大事で身近な存在だ。
分類は完了した。しかしどうも見えてこない。
無駄骨だったかな…
成立する過程を考えて分類
次は略される過程を考えながら略語を列挙してみよう。
Ⅰ.時間経過とともに次第に文字が抜け落ちたパターン
スーパーマーケット→スーパー
定期券→定期
いちいち略さずに話すのは面倒くさい。まどろっこしい。口が忙しない。そんな雑な経緯で略される。 略語とは元来雑な言葉遣いであるので、これが大筋であるのは間違いなかろう。 ほとんどの略語がこちらに入る。
Ⅱ.意図的に略語が作られたパターン
前2つは要は企業戦略の一種である。少々乱暴だがプロパガンダといってもいい。
僕はその時代に生まれていないので推測するか調べるかしかできないが、エアーコンディショナーにエアコンという略語を与えたのは日本に初のエアコンを輸入した企業か、国内で家庭用エアコンを初めて製造した東芝(たぶん)かだろうと思う。(調べてもいまいち欲しい情報にありつけなかったので95%推測)
エアコンが普及したのはテレビより先だったはずなので、新聞広告やらチラシやら電気屋の看板やらにエアコンの文字が出たのが最初だったのではなかろうか。
呼びやすく親しみやすい略語を作って売り出すことで、何か難しそうな機械言葉をしゃべっているぞという印象を和らげることができたのだと思う。
つまり消費者が使ううちに略しだした自然発生的な略語でなく、企業側によって初めから用意された略語であるということだ。
一方、スマートフォンが生まれた時代は僕は自分の目で見ているので思い出せる。
しかしこちらはこちらで時代的な問題がちょっとだけある。
スマホが出てきた時代は既にテレビやネット環境が家庭にあたりまえにあり情報の拡散速度が超高速になっているという問題だ。
最初に略語が生まれたのはどこか、初めにスマホと呼んだのがドコモだったか消費者側だったか判定するのが難しいのである。
仮に企業が生み出した略語であったとしてもテレビがあるせいで一瞬で広まるし、消費者が各々略し出して生み出された言葉であったとしてもネットがあるせいですぐに広まり統一される。当時はTwitterもLINEもなかったがmixiやFacebookがあったので「スマートフォン→スマホ」はあっという間に広まり得る。
だがいずれにしてもⅡに分類できることには変わりない。
※もしかしたらTwitterは既にあったかもしれないが、まだFacebookの方がメジャーだったように記憶している
携帯は?
携帯はどちらだろうか。
Ⅰだろう。
けいたいでんわはけいたいでんわと後ろが抜け落ちていき出来た略語だと考える。
実は前半のみが残るパターンはその多くがⅠ.時間経過で抜け落ちたパターンに入る。
全てではないが多くがそうだ。
ちなみに逆は全てと言える。(逆裏対偶の逆)
すなわち、Ⅰであれば前半のみが残っている。
口に出したり書いたりしていて毎回正式名称を使うのがまどろっこしいからできた略語である。最後まで言いきってしまうのがめんどくさい、途中まで言えば伝わるよねという認識で生まれるわけなので後半が抜け落ちるのは至極自然なことだ。
一方、エアコンや薬治のような前半と後半に分けてそれぞれの頭をちぎってくるタイプの略語は必ずⅡ.意図的に略語が作られたパターンに入るはずだ。 自然発生的には生まれ得ない。
やくぶつちりょうがくの9音のうち全部言うのがまどろっこしいと感じたとしても、「やく」ぶつでめんどくさくなって「ぶつ」を省いた後「ち」でちゃんと言おうという気力が復活するわけがない。
「携帯」でなく「携電」であればⅡであっただろう。
ちなみに「意図的」の度合いによってⅠともⅡともとれる略語もあるが、ややこしくなるので割愛。
そう考えると携帯電話を最初に略したのは、スマホとは違いドコモなどの電話会社ではなく消費者側だということになる。(Ⅰは消費者が面倒くさがったことの必要十分条件であるため)
どうだろう。
正直わからない。僕ガラケー持ったことないし()
高校時代学内備え付けの公衆電話を使っていたクラスで唯一の人間が僕なのだ。本当にわからない。自分自身に縁がなかったので携帯が普及した時のことを覚えていない。
というわけで計算の後に検算するように、どちらが携帯電話と略し始めたかを思い出すことで携帯電話はⅠに属すという仮説のだいたいの検証(逆は真とは限らない)ができたはずだが、それは叶わなかった。
しかしまぁ結論は出た。
結論
この記事のタイトルである『携帯電話の略称はなぜ「携帯」なのか』という疑問に対する僕の回答は
「意図して作られた略語でなく時間とともに一部が抜け落ちていって出来た略語であるから」
となる。
直感的にまぁそうかなと感じられるので、たぶん合ってると思う。